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大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)1679号 判決 1975年12月18日

原告

井戸健吾

ほか一名

被告

荻田安規

ほか二名

主文

被告荻田安規は、原告井戸健吾に対し、金一〇二万〇、一六九円およびこれに対する昭和四九年五月一〇日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告井戸真佐子に対し、金三三万四、七〇六円およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告らの被告荻田安規に対するその余の各請求ならびにその余の被告らに対する各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告らと被告荻田安規を除くその余の被告らとの間においては全部原告らの負担とし、原告らと被告荻田安規との間においてはこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を右被告の負担とする。

この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは各自、原告井戸健吾に対し、金一九二万三、六六二円およびこれに対する昭和四九年五月一〇日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告井戸真佐子に対し、金七九万六、六九七円およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四六年一〇月一九日午後三時四〇分ごろ

2  場所 大阪市南区末吉橋通四丁目二二番地先交差点

3  加害車 小型乗用自動車(大阪五ら五八〇九)

右運転者 被告 荻田安規

4  被害者 原告両名

5  態様 原告井戸健吾が運転し原告井戸真佐子同乗の普通乗用自動車が東進中、右交差点において、北進中の加害車が原告ら車両の右側方に衝突した。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

被告池田嘉雄は、加害車の登録名義人であり、自己のために運行の用に供していた。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

被告荻田増雄は、被告荻田安規を雇用していたものであるところ、同人が加害車を運転中、後記過失により本件事故を発生させた。

3  監督者責任(民法七一四条一項)

仮に右が認められないとしても、被告荻田増雄は、親権者父として、当時未成年であつた子被告荻田安規の発生させた本件事故につき責任がある。

4  一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告荻田注視義務違反、一時停止義務違反、原告らの優先通行権無視等の過失により本件事故を発生させた。

三  損害

1  受傷、治療経過等

(一) 受傷

(原告健吾)頸部挫傷、頭部・胸部・左大腿部各打撲傷等

(原告真佐子)頸部挫傷

(二) 治療経過

(原告健吾)

入院 大野病院

昭和四六年一〇月一九日から同年同月二七日まで

通院 松田外科

昭和四六年一〇月二八日から昭和四七年八月一九日まで

(原告真佐子)

通院 松田外科

昭和四六年一〇月二八日から昭和四七年八月一九日まで

(三) 後遺症

原告両名とも

頭痛、吐気、手指のふるえ等

2  治療関係費

(一) 治療費

(原告健吾) 三六万三、八五二円

(原告真佐子) 二七万六、二二一円

(二) 入院中等の雑費

(原告健吾) 九、〇八〇円

(三) 入院付添費

(原告健吾) 二万円

(四) 通院中付添費

(原告真佐子) 六万円

(五) 通院交通費

(原告健吾) 二万二、九七〇円

(原告真佐子) 一万五、一二〇円

(六) 栄養食品費

(原告健吾) 一、二〇〇円

3  休業損害

(原告健吾)

原告健吾は事故当時三九才で、大阪市天王寺区味原町八番地で喫茶店と中華料理店を経営し、一か月平均一〇万円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和四六年一〇月一九日から昭和四七年八月一九日まで休業を余儀なくされ、その間合計一〇〇万円の収入を失つた。

(原告真佐子)

原告真佐子は事故当時三六才で、夫原告健吾の経営する右店舗で、店員として働き、一か月平均六万円の収入を得ていたが、本件事故により、右のとおり一〇か月休業を余儀なくされ、その間合計六〇万円の収入を失つた。

4  慰藉料

(原告健吾) 一〇〇万円

(原告真佐子) 五〇万円

5  弁護士費用

(原告健吾) 三〇万円

(原告真佐子) 一五万円

四  損害の填補

自賠責保険金より、原告健吾は五四万八、七九〇円、原告真佐子は六三万五、四七〇円それぞれ支払を受けた。

五  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合により、訴状送達の日の翌日から。)を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁

一  被告荻田安規、同荻田増雄は認める。

一は認める。

二の2および3は争う。

二の4は争う。

三は争う。

四は認める。但し、原告らはそれぞれ六九万円あて受領している。

二  被告池田嘉雄

一は認める。

二の1は認める。但し、加害車は、かつて被告池田の甥池田正一がこれを購入し、車庫証明の関係上登録名義のみ被告池田としていたのであるが、その後加害車の所有者は次々と変わり、本件事故当時は訴外安田光春の所有であつた。よつて被告池田に責任はない。

三は争う。

第四被告荻田安規の主張

過失相殺

仮りに被告荻田安規の過失が認められるとしても、本件事故の発生については原告健吾にも右方車に対する注意を怠つた過失があるから、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

第五被告荻田安規の主張に対する原告らの答弁

争う。

第六証拠〔略〕

理由

第一事故の発生

請求原因一の事実は、当事者間に争いがない。

第二責任原因

一  被告池田嘉雄の責任について

請求原因二の1の事実は当事者間に争いがない。しかしながら、被告池田嘉雄が単に加害車の登録名義人であるというのみでは、運行支配および運行利益を認むべき事実としては十分でない。また右被告において明らかに争わないから〔証拠略〕によれば、自動車貸与証明書と題する同号証中に右被告が加害車の所有者であるかのごとき記載があるが、右被告が加害車の所有者であることは原告らの主張しないところであるうえ、右被告の答弁の主旨に照らせば、〔証拠略〕をもつて右被告が加害車の所有者であるとか実質的な使用権限者であることを認めるに足る証拠とはなし難いし、その他運行利益を認めるに足りる証拠は見当たらない。結局、被告池田嘉雄に対し運行供用者責任を負わせるに足りる主張も証拠も存しないことに帰着する。よつて、原告らの右被告に対する本訴各請求はその余の点につき判断するまでもなく理由のないことが明らかである。

二  被告荻田増雄の責任について

1  請求原因二の2の事実は、これを認めるに足りる証拠がない。

よつて、被告荻田増雄に対し使用者責任を負わせることはできない。

2  〔証拠略〕によれば、被告荻田安規は被告荻田増雄の長男であることが認められる。しかしながら、〔証拠略〕によれば被告荻田安規は事故当時一八才であつたことが認められるから、同被告が事故当時弁識能力を具備しなかつたものということはできない。現に原告らは本訴において被告荻田安規に対し、責任能力あつたものとして損害賠償を求めているところである。

よつて、被告荻田増雄に対し責任無能力者の監督者責任を負わせることはできない。

結局、被告荻田増雄には責任原因が存しないから、原告らの同被告に対する本訴各請求はその余の点につき判断するまでもなく理由のないことが明らかである。

三  被告荻田安規の責任について

被告荻田安規には次に認めるとおりの過失が存するから、同被告は民法七〇九条により、本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

すなわち、〔証拠略〕によれば、本件事故現場は市街地を東西に通ずる道路と南北に通ずる道路とがほぼ直角に交差する、交通整理の行なわれていない交差点内であるが、右東西に通ずる道路は、中央に幅員一二mの駐車場があり駐車道の南北にそれぞれ幅員一・五mの分離帯が設置されていること、駐車場の北側が東行車線、南側が西行車線でともに幅員一三mであること、車道の北側と南側にそれぞれ歩道があること、原告健吾運転の自動車は東行車線内の歩道から数えて三番目の車線を走行中右南北に通ずる道路との交差点内で加害車と衝突したものであること、右南北に通ずる道路は北行一方通行で幅員約六mであり、その東側に南北に通ずる横断歩道が設置されていること、したがつて右東行車線は南北に通ずる道路に比して明らかな広路というべきこと、なお右駐車場には事故当時数台の駐車々両があつて、右分離帯と相まち、北進車両に対しては東行車線左(西)方への見通しを妨げ、東進車両に対しては右(南)方への見通しを妨げる要因となつていたこと、加害車は南北に通ずる道路を北進し東西に通ずる道路の西行車線の手前で一旦停止して発進し、東行車線の手前では一旦停止することなくそのまま交差点内に進入しようとしたところ、被告荻田安規は、分離帯の直前で東行車線の西方一〇・四mの地点に接近しつつある原告健吾の自動車を発見し、危険を感じて急制動措置をとつたが及ばず、五・三m進行した地点で加害車の前部が原告健吾の自動車の右側運転席付近に衝突したこと、原告健吾の自動車は東行車線を走行して右交差点にさしかかつたところ、同原告は右横断歩道を北から南へ渡ろうとしている横断歩行者を認め停車しかけたが、右横断歩行者が歩道上に引返したので、そのまま進行して交差点内に進入したところ、右のとおり衝突したものであることなどの各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、被告荻田安規には一旦停止義務があるというべきところ、これを怠り、漫然交差点内に進入しようとした過失のあること疑問の余地がない。

第三損害

1  受傷、治療経過等

〔証拠略〕によれば、請求原因三―(一)(二)の事実が認められ、かつ後遺症として、原告両名とも頭痛、吐気、手指のふるえ等の症状が固定(昭和四七年八月一九日ごろ固定)したことが認められる。

2  治療関係費

(一)  治療費

〔証拠略〕によれば、次のとおり認められる。

(原告健吾)

大野病院分 一〇万九、一六〇円

松田外科分 一四万九、七〇二円

岩垣医院分 一、五五〇円

計 二六万〇、四一二円

(原告真佐子)

大野病院分 二万一、三三〇円

松田外科分 一四万七、五四三円

計 一六万八、八七三円

(二)  入院雑費 二、七〇〇円

原告健吾が九日間入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中一日三〇〇円の割合による合計二、七〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。右金額を超える分については、本件事故と相当因果関係がないと認める。

(三)  入院付添費 二万円

〔証拠略〕によれば、同原告は前記入院期間中付添看護を要し、その間付添人として訴外中島順子を雇い同人に対し付添料二万円を支払つたことが認められ、したがつて右同額の損害を被つたことが認められる。

(四)  通院中付添費

〔証拠略〕によれば、同原告は前記通院期間中家政婦として診外北沢節子を雇い、同人に対し計六万円を支払つたことが認められる、しかしながら、同原告は本訴において、夫原告健吾の経営する店舗で働き、月収六万円(右は昭和四六年賃金センサスにより認められる原告真佐子と同年令の女子労働者の平均賃金をかなり上回る金額である。)を得ていた旨主張しているのであるから、もともと同原告は家事労働に従事することのできない立場にあつたというべきであり、したがつて右家政婦に支払つた費用は、本件事故と相当因果関係がないと認める。

(五)  通院交通費

(原告健吾) 二万二、九七〇円

(原告真佐子) 一万五、一二〇円

〔証拠略〕によれば、原告健吾は前記人、通院のため、原告真佐子は前記通院のためそれぞれ右各員相当の交通費を要したことが認められる。

(六)  栄養食品費

必要性を認めるに足りる証拠がない。

3  逸失利益(休業損害)

(原告健吾) 一〇〇万円

〔証拠略〕によれば、同原告は事故当時三九才で、喫茶店を経営して自らバーテンとして働き一か月平均一五万円の純益を得ていたが、本件事故により、昭和四六年一〇一九日から昭和四七年八月一九日までの間右の仕事に従事することができなくなり、この間代わりのバーテンを雇つてこれに対し一か月平均一〇万円の給与を支払つたため、その間右給与相当の収入を失つたことが認められる。そこで、昭和四六年賃金センサスにより認められる同原告と同年令の男子労働者の平均賃金が月額一一万五、九三〇円であることをも考慮して、右支払い給与一〇万円の一〇か月相当分をもつて原告健吾の休業損害と認める。

(原告真佐子) 四八万六、二五〇円

〔証拠略〕によれば、原告真佐子は、事故当時三六才で、原告健吾の経営する右喫茶店でウエイトレスとして働き給与を得ていたが、本件事故により、原告健吾の休業期間と同一の期間休業を余儀なくされたことが認められる。しかしながら、原告らは夫婦であるうえ、原告真佐子の実際の稼働状況を明白に把握するに足りる証拠が見当たらない以上、同原告主張の一か月六万円の給与を得ていたことを前提に同原告の休業損害を算定することは許されない。そこで、同原告と同年令の女子労働者の昭和四六年賃金センサスにより認められる給与平均月額四万八、六二五円の、一〇か月相当分をもつて原告真佐子の休業損害と認める。

4  慰藉料

(原告健吾) 六〇万円

(原告真佐子) 五〇万円

本件事故の態様、原告らの傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度、原告らの年令その他諸般の事情を考えあわせると、原告らの各慰藉料額はそれぞれ右の各金員とするのが相当であると認められる。

以上損害計

(原告健吾) 一九〇万六、〇八二円

(原告真佐子) 一一七万〇、二四三円

第四過失相殺

前記第二の三認定の事実によれば、本件事故の発生については原告健吾にも右方道路に対する注視義務違反の過失が認められるところ、前記認定の被告荻田安規の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告ら各自の損害の一五%を減ずるのが相当と認められる。

損害計

(原告健吾) 一六二万〇、一六九円

(原告真佐子) 九九万四、七〇六円

第五損害の填補

〔証拠略〕によれば、自賠責保険から原告らに支払われた金員は原告ら一人当たり各六九万円(原告健吾分のうち一四万一、二一〇円は同原告の治療費の一部として、原告真佐子分のうち五万四、五三〇円は同原告の治療費の一部として、それぞれ被告荻田側を通じて医療機関あて支払われた。)であることが認められる。

よつて原告ら各自の前記損害額から右填補分六九万円を差引くと、残損害額は原告健吾が九三万〇、一六九円、原告真佐子が三〇万四、七〇六円となる。

第六弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告らが被告荻田安規に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、原告健吾分が九万円、原告真佐子分が三万円とするのが相当であると認められる。

第七結論

よつて被告荻田安規は各自、原告健吾に対し、一〇二万〇、一六九円、およびこれに対する本件不法行為の日の後である昭和四九年五月一〇日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、原告真佐子に対し、三三万四、七〇六円、およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告らの本訴各請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、原告らの右被告に対するその余の各請求ならびにその余の被告に対する各請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本多市)

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